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2014.03.05

同時通訳、長井鞠子

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「ふるさと」の英語表現を考える長井さん、hometownではねえ・・・

録画しておいたNHKの「プロフェッショナル」を見た。今回は「言葉を超えて、人をつなぐ、通訳者・長井鞠子」というタイトルで、サミットや経済交渉などの国際会議で通訳をしている女性の話である。いちばん印象に残ったのは、長井さんが毎回おどろくほど入念な準備をしていることだった。「努力と準備は、裏切らない」が座右の銘らしい。

石舞台などで有名な明日香の遺跡を世界遺産に指定してもらう申請を出し、その視察にユネスコの委員が奈良にやって来た。会議では長井さんがその通訳を担当する。考古学や古代史の話が飛び交うからなかなか難しい仕事である。

長井さんは、前もって与えられた資料を見てキーワードをチェックする。専門用語の単語帳をつくる。それも日本語を英語に、英語を日本語に、と両方から確認していく。やさしい言葉でもチェックしていく。話し手が伝えたいと思っていることを、できるだけ正確に翻訳するためである。

長井さんが周到な準備をするのは、過去に一度大失敗をしたことがあるからだ。ある会議で決定的なミスをして、「あなたはもう来なくていいです」と言われ、一時は通訳の仕事ができなくなるほど落ち込んだという。母の励ましでなんとか乗り越えたが、それ以来、会議で出そうな言葉を徹底的に調べておくようになったそうだ。

資料はあるものの、会議の現場では演者が何を言うか分からない。英語もくせやなまりがある。声の大小があり、スピードも違う。その場その場の勝負だから格闘技みたいなところがあり、毎回、真剣勝負だという。

原発事故の避難状況を把握するために国連視察団が福島に来た。そのときも長井さんが呼ばれた。さっそく浪江町長の原稿の要約をもらい、英語表現をチェックする。ふるさとの浪江町」という言葉が何度もでてくるが、その「ふるさと」の英語訳に迷う。ふるさとは一般にhometownと訳されるが、ちょっと違う。our homesでは建物に限定されてしまいそうだし、birthplaceでは生地だから共同体の感じが弱い。

当日、長井さんは「ふるさとの浪江町」を "beautiful NAMIE town as our home" とやった。みごとなものだ。こんな言葉はその場で思いつくものではない。浪江町の人々がどういうふうに自分のふるさとのことか、思っているかをよくよく考えた上で出てきた言葉だ。ちなみに長井さんは仙台生まれである。

私も通訳のような仕事をしていたことがある。観光ガイドやオステオパシーのセミナー、企業の会合やヴィパッサナー瞑想コースなどである。ゲシュタルト療法のワークショップではほとんど毎週で3年以上通訳をした。しかし会議通訳はやらない。私もとんでもない失敗をやらかしたことがあるからだ。

あるときコンピュータ関係の講演の通訳を頼まれ、時間の余裕がなくてなんの準備もしないで会場に行った。それがAI(人工知能)の話だった。ケーブルテレビなどの話の通訳もしたことがあるのでなんとかなるだろうと考えていたのだが、これが間違いだった。次々に専門用語が出てきてその意味がよく分からない。演者のアメリカ人女性はあがっていて、矢つぎばやにしゃべる。私はそれを遮るようにしながら訳していったが、どうしてもたどたどしくなる。会場に集まった人たちのいらだちがこっちに伝わってくる。冷や汗をかきながら、なんとか一時間もたせたが、あれは地獄だった。演者にも聴衆にも、わるいことをした。以来、会議通訳はいっさい引き受けないことにした。

70歳で現役の同時通訳者、長井鞠子さん。長井さんは日本の国を背負って仕事をしているといっても過言ではない。そのたゆまぬ努力には、ただただ頭が下がる。長井さんは、漢語を少なくして「やまとことば」を多くし、さらにわかりやすい日本語を目指したいと言っている。それでいま和歌を勉強しているそうである。


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コメント

70歳で現役の同時通訳者とは凄いお人ですね。
よほど記憶力が良くて鋭敏な人でないと難しい
仕事ですよね。少しのミスも許されない仕事てすから。
脳細胞は年齢と共に低下すると聞かされますが長井さんの頭脳はどうなって
居るのでしょうね。

投稿: tama | 2014.03.07 11:10

★tamaさん、

能も
筋肉と同じで
鍛えれば
いつまでも
若い

投稿: ripple | 2014.03.07 11:47

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