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2013.03.31

山崎方代の歌(2)

甲州の柿はなさけが深くして女のようにあかくて渋い
丘の上を白いちょうちょうが何かしら手渡すために越えてゆきたり
ふるさとの右左口郷(うばぐちむら)は骨壺の底にゆられてわがかえる村

さいわいは空の土瓶に問いかけるゆとりのようなもののようなり
人生はまったくもって可笑しくて眠っている間のしののめである
なんという不思議なことだおもむろに蓋をとって茶をのんでいる

死ぬほどの幸せもなくひっそりと障子の穴をつくろっている
行く先をもたざるわれも夕方になればせわしく先をぞ急ぐ
私が死んでしまえばわたくしの心の父はどうなるのだろう

明日のことは明日にまかそう己よりおそろしきものこの世にはなし
力には力をもちてというような正しいことは通じないのよ
みごとな卵である 鉄砲玉もとおらない

かくれんぼ鬼の仲間のいくたりはいくさに出てそれきりである
しぼり出る汗の匂いを華というふざけた事はいわないでくれ
街燈の下を通って全身を照らしだされてしもうたようだ

わたくしの六十年の年月を撫でまわしたが何もなかった
こんなにも赤いものかと昇る日を両手に受けて嗅いでみた
夕日の中を変な男が歩いていった俗名山崎方代である

歌を作れ
歌を作れと
呼ぶ声が
巌とともに
とどろきせまる

                   出典:山崎方代歌集『こんなもんじゃ』

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コメント

死ぬほどの幸せもなくひっそりと障子の穴をつくろっている
行く先をもたざるわれも夕方になればせわしく先をぞ急ぐ

rippleさんが引用したくなるほどどの歌も良い歌ですが
上記の歌が好きですね。

投稿: kei | 2013.04.02 05:31

★keiさん、
だれだれ歌集なんていうのを開いても、
なんだか小難しくてわけのわからない
ものが多いけれど、方代さんの歌には
わからないというのがない。こころの
つぶやきが伝わって来ます。

投稿: ripple | 2013.04.02 09:26

『歌を作れ
 歌を作れと
 呼ぶ声が
 巌とともに
 とどろきせまる』
短歌を進められて、講座に参加しつつあるものの、この現象 短歌にできないかな!とおもいつつも できなく・・・私の世界では短歌は苦しみにの哲学(芸術)という感じでした。 
今日 伊勢先生から「山崎ほうだい」先生のことをしらせて、ええ?これ短歌?というおもいでした。 
いまままで かざろうとおもっていた自分でしたが、考えを少し変えて「楽しみの短歌」に接していきたいと思います。有難うございます。
  

投稿: 猪口 恒有 | 2017.03.18 16:05

『初めての
ステージにて
歌詞忘れ
幼子のごとき
伴奏の師へ走りゆく』

投稿: 猪口 恒有 | 2017.03.18 16:12

★猪口さん、
コメント、ありがとうございました。
あらてめて読み直して、また感動ひとしおです。
かざらない正直な歌でいいですね。

用意した
あいさつ文を忘れて
立ち往生
ただ一言
ありがとうございました

私は口語自由律「五行歌」をやっています。

投稿: リプル | 2017.03.19 10:33

『小玉西瓜
 収穫したと
 吾に届け
 箱の結び目
 友の癖なり』

投稿: 猪口 恒有 | 2017.07.07 23:18

★猪口さん、
季節感あふれる歌ですね。

いただいた
サクランボを
ゆっくり味わう
贈り主を
想いながら

投稿: リプル | 2017.07.08 14:22

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