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2011.01.28

飛鳥の断崖と五行歌

Asuka草壁焔太著『飛鳥の断崖』は衝撃的な本である。どうしてこの本がもっと大々的に取り上げられないのか不思議というほかない。その昔、自由に大らかに歌を詠んでいた古代の人たちが、飛鳥時代のある時期を境にして、だれもが五七調の歌ばかりを詠むようになってしまった。この本はその謎を解明しているからである。

日本の文化の中心ともいうべき詩歌の、その呼吸、メロディが、飛鳥時代のほんの10年あまりの間に突如変化し、それが1300年以上もそのまま続いている。遣隋使たちがもたらした漢詩の多くが五言や七言で書かれていたため、その影響を色濃く受けたゆえである。草壁先生は、具体例をあげ、和歌の破調率を調べあげ、この事実を見事に証明している。(写真は『飛鳥の断崖』の表紙だが、タイトルを縦に赤く切った線がその断崖である。左側は古代歌謡の自由な歌で破調率が大きい。右側は五七調になってしまったので、破調率は極端に落ちる。それが今日まで続いている。)

破調率というのは、和歌や俳句でいう「字余り」「字足らず」の出現率のことで、五七以外の音数(たとえば四音や六音など)で成り立っている句の割合である。それが万葉以前の古代歌謡では40パーセント以上だったのに、630年ごろ、とつぜん10パーセント以下にに落ち込むのである。つまり、それまで自由に詠われていた歌が一斉に五七調に変わってしまったのだ。これを草壁先生はいみじくも「飛鳥の断崖」と呼んだ。

たとえば、古事記にある倭建命(やまとたけるのみこと)の国しのびの歌は五七調ではなく自由に詠っている。

やまとは            
くにのまほろば
たたなづく
あをかき
やまこもれる
やまとしうるはし

夜麻登波               原文 
久爾能麻本呂婆 
多多那豆久 
阿袁加岐 
夜麻碁母禮流 
夜麻登志宇流波斯

大和の国は              意味
国々の中で最も優れた国だ
重なり合って
青々とした垣のように
国を囲む山々
大和は美しい

それぞれの句の音は475468で、破調率は6分の4で67パーセント。
まったく五七調とは違ったリズムで書かれている。

五行歌は五七五七七という和歌の呪縛から逃れて、思いを自由に歌にしようというのである。実際、感じたことを口語で自由に表現してみると、きわめて素直に、そして自然に自分らしい歌が書けるのである。

定型の
美しさを
説く人がいるけれど
わたしは
自由に歌いたい

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コメント

えんた先生はこのご著書をかなり前に
お書きになっていたのですね。
知りませんでした。さっそく読んでみます。
私も自由に歌って開放されました(^^)v

投稿: ミモザ | 2011.01.28 19:51

はじめまして
明日香の住民として、興味深く読ませていただきました。
確かに五七五七七でなくても、↑のように素晴らしい歌が読めるのですね。
「やまとはくにのまほろば」
私の大好きな言葉です。

投稿: まこ | 2011.01.28 21:22

この話は初耳でした
そうですか、昔は自由体でしたか・・・
う~ん、自由に読むならば
僕も歌を読めるかも・・・かな?

投稿: ブル | 2011.01.28 21:55

啓示に富んだ本ですね。明日、さっそく買い求めたいと存じます。

やまとしうるはし

断崖は
目の前にあるだけでは無い
至る所
山があり谷がある
そこに人生もある

勉強になりました。

投稿: 荒野人 | 2011.01.28 21:57

★ミモザさん、
自由律から五七調への変化には気づいておられた
ようですが、これほど急激に変わったというのを
発見したのは10数年前のことのようです。
和歌は日本の伝統文化ともてはやされていますが、
けっこう人為的に発生したようです。
自由な歌がいい、五行歌がいいですね。(^-^)

投稿: ripple | 2011.01.29 10:31

★まこさん、
まこさんは明日香でしたか。
あの時代は明治維新よりも大きな変動期だった
ようです。仏教の伝来、紙の製法の伝来、いろ
いろと中国の影響がありましたね。
まほろば、やまと言葉は美しいですね。

投稿: ripple | 2011.01.29 10:35

★ブルさん、
自然体が自然でしょう。
それが突然五七調になってしまったのです。
和歌とはいえ漢詩の体裁をもらっているのです。
五七調になれているので調子はいいのですが、
それが制約となっているのも事実でしょう。

投稿: ripple | 2011.01.29 10:40

★荒野人さん、
心のつぶやきや叫びは自然に出るもの。
気持ちがいい、お腹がすいた、眠い、疲れた、
悲しい、嬉しい… 字数制限するのは変ですね。

ゲームなら
ルールがあってもいい
歌は
心のままをうたうのだから
五七調は足かせになる

投稿: ripple | 2011.01.29 10:49

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